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東京地方裁判所 平成6年(特わ)2837号 判決

国籍

韓国

住居

東京都品川区東大井二丁目二五番三号

会社役員

宮田卓亨こと金卓亨

一九五〇年一〇月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官畝本直美、弁護人安田道夫各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都品川区東大井二丁目二五番三号に居住し、同区東大井五丁目二番一三号において、パチンコ店「ジャンボ」の名称で遊技場を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年分の実際総所得金額が一億四八六九万八五九七円(別紙1所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一四日、東京都港区高輪三丁目一三番二二号所在の所轄品川税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が二五一九万三八二八円で、これに対する所得税額が七八六万七五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六九六二万円と右申告税額との差額六一七五万二五〇〇円(別紙2ほ脱税額計算書参照)を免れた

第二  平成三年分の実際総所得金額が五五四六万九九一六円(別紙3所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一三日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が二一四一万二三一九円で、これに対する所得税額が六一六万四三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三一八万六六〇〇円と右申告税額との差額一七〇二万二三〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れた

第三  平成四年分の実際総所得金額が一億五一八八万八五七九円(別紙5所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が二五四〇万二一二一円で、これに対する所得税額が六〇七万七六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六九三二万〇六〇〇円と右申告税額との差額六三二四万三〇〇〇円(別紙6ほ脱税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  大塚聰男及び金徳柱の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上調査書、仕入調査書、減価償却費調査書及びその他経費調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

判示第一及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の利子割引料調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の水道光熱費調査書及び修繕費調査書

一  押収してある平成二年分所得税確定申告書等一袋(平成七年押第一二三号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の通信費調査書及び消耗品費調査書

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の配当控除額調査書

一  押収してある平成三年分所得税確定申告書等一袋(同号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の期末商品棚卸高調査書、租税公課調査書、広告宣伝費調査書、給料賃金調査書、地代家賃調査書、諸会費調査費、支払手数料調査書、固定資産除却損調査書及び青色申告控除額調査書

一  品川税務署長作成の証明書

一  押収してある平成四年分所得税確定申告書等一袋(同号の3)

(法令の適用)

一  罰条 いずれも所得税法二三八条一項(判示第一の所為の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)

二  刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑を併科

三  併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

罰金刑について 刑法四八条二項(各罪の罰金額を合算)

四  労役場留置 刑法一八条

五  刑の執行猶予 懲役刑について 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、パチンコ店を経営していた被告人が、平成二年分から平成四年分の自己の所得税合計一億四二〇〇万円余をほ脱したという虚偽過少申告ほ脱犯の事案であるが、ほ脱額は右のとおり高額であり、ほ脱率も通算約八六・四パーセントと高率に達している。被告人は、自らコンピューターを操作して内容虚偽のジャーナルペーパーを作成した上、回収された売上金の中から売上除外額に相当する現金を抜き取り、これらを一時自宅金庫等で保管してから簿外の仮名預金口座等に入金する一方、換金用景品の仕入れを除外するなどしていたものであって、犯行態様は悪質である。また、私生活面での利益を図ったという点はもとより、先行きが不透明なパチンコ店経営の将来に備えるための資産蓄積という犯行の動機にも格別酌量すべきものはない。しかも、被告人は、平成三年一〇月の税務調査の際、売上除外分の一部について指摘を受け、修正申告をしているにもかかわらず、従前同様の所得秘匿工作を続けていることも考慮すると、被告人の納税意識は稀薄であるといわざるを得ない。以上によれば、被告人の刑事責任は軽視することができないというべきである。

他方、被告人は、本件調査終了後に本件起訴に係る三年分について修正申告をし、所得税本税及び地方税を完納していること、附帯税の未納分についても平成七年一〇月までに完納すべく分割納付中であり、同年三月分まで毎月三六〇万円の分割納付を履行していること、被告人には罰金前科二犯以外に前科はなく、本件各犯行を認めて反省していること、平成四年九月に事業を法人化して税理士の指導を受けているほか、売上の明瞭化を図るべくプリペイドカードを導入する意向であること、本件が報道されたとこによりある程度の社会的制裁を受けていること、妻と幼い子供らを扶養すべき立場にあることなどの酌むべき事情も認められる。

以上の諸事情を総合考慮し、被告人と主文の懲役刑及び罰金刑に処し、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円)

(裁判官 中里智美)

別紙1

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙3

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙5

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙6

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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